TR 2SA1007A-2SC2337A

パワーアンプ兼パワーIVC






バッテリードライブパワーIVCのうち、1台はバッテリードライブ不完全対称型パワーアンプ兼パワーIVCとして復活した。

・残りの2台も解体し保護回路基板はリユース済みなので、この際、アンプ部基板から出来るものはキャリーオーバーし、オールトランジスタ(初段の差動アンプを除く)のパワーアンプ兼パワーIVCを1台拵えてはどうか。

・1台減。

・こんな感じ。



・極普通。不完全対称型。



・このところのパワーアンプ兼パワーIVCと同様に、2段差動アンプによる電流ドライブのプッシュプルフォロア出力段。



・2電源でシンプルに。



・終段のアイドリング電流は素子当たり200mA、パラで400mA。



・位相補正は5pFで可だが、倍の10pFにしておく。
・そのゲイン-周波数特性。


・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)としたパラメトリック解析。赤のオープンゲインと青のループゲインは、下から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。緑はクローズドゲイン。


・赤のオープンゲインは、4Ω負荷時66.9dB、8Ω負荷時72.4dB、16Ω負荷時77.5dB、32Ω負荷時81.9dB、64Ω負荷時85.4dB、100kΩ負荷時91.3dB。


・青のループゲインは、4Ω負荷時40dB、8Ω負荷時45.6dB、16Ω負荷時50.7dB、32Ω負荷時55.1dB、64Ω負荷時58.6dB、100kΩ負荷時64.5dB。


・緑のクローズドゲインは26.8dB。


・良さ気。


・パワーIVC動作時のゲイン-周波数特性は、これまでの経験からこれと同じと考えられるので、ミドルブルック法による測定は省略。
1.4Vp−p10kHz正弦波を入力し、各部の動作を観る。
・一番下が出力電位と終段上下パワートランジスタそれぞれのパラのコレクタ電流値。



・電圧推移のピークが±31V弱だが、前段電源を終段電源と共用した±35V電源なので、この辺が出力限界。



・下から2番目はその際の2段目差動アンプの電流値。何も問題はないが正弦波としてはゆがんでいる。NFBアンプなので、こうやって上手く出力を入力に相似にしているのだろう。



・上から2番目が、終段プッシュプルドライバーのコレクタ電流値の推移。1番上が終段パワートランジスタのパラのベース電流値の推移。トランジスタはベース電流で動くということが良く分かる。
±1.3Vp−p10kHz方形波応答を観る。



・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)とした場合のパラメトリック解析。
・1番下が出力波形だが、当然どの負荷でも同じ応答。

・下から2番目はその場合の終段上下パワートランジスタのそれぞれパラの合計コレクタ電流波形。どちらも電流値が大きい方から負荷が4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩの場合。

・出力波形にはオーバーシュートもアンダーシュートもないが、終段パワートランジスタのコレクタ電流波形にはオーバーシュートとアンダーシュートがある。これはCob等の電極間容量の充放電速度不足による高域でのバイアス電圧増に伴う貫通電流だが、上下パワートランジスタのベース間にバイアス回路同様な低インピーダンスの電圧源を入れる(K式でいう完全プッシュプル・ドライバー)か、1uF程度のC(高域でインピーダンスが下がる)を入れると消せる。

が、代用モデルの2SA1943のCobは360pF、2SC5200のCobは250pFなのに対して、実際には250pFと150pFのものを起用する。よって、このオーバーシュートとアンダーシュートはもう少し小さくなるし、この程度なら問題ないので省略。実際そんな高周波はオーディオアンプに入力されることはないし、それが故かK式でも電池式GOA以降無視されている。

・上から2番目がこの場合の終段プッシュプルエミッタフォロアドライバーのQ12とQ13のコレクタ電流の推移。1番上の図がその際に終段パワートランジスタの上下それぞれのパラのベース電流の推移。

上から2番目の図で、方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプルの上側と下側のトランジスタに急激なパルス電流が流れている。1番上の図で、同じタイミングで終段パワートランジスタのベースにパラでほぼ同量のパルス電流が流れている。

・トランジスタだから、コレクタ電流を流すためにはベース電流を流さなければいけないが、それは方形波が定常状態になった時の電流が必要な電流値。立ち上がり、立下り時のパルス電流は終段上下パワートランジスタのCob等の充放電電流。
上下パワートランジスタのベース間に1uF程度のCを加えると、本当にパワートランジスタのコレクタ電流波形のオーバーシュート、アンダーシュートを消せるのか観る。
・消えた。



・こんな簡単なことで消えるなら、面倒で微妙な“完全プッシュプル・ドライバー”など不要だったのではないか、と思えるが、DCから高域まで同一動作をする“DCアンプ”としては、ここにCを入れるわけにはいかない、ということだったのかな。



・ところで、方形波の立ち上がり、立下り時に終段パワートランジスタのベースに流れるパルス電流の量だが、MOS-FET パワーアンプ兼パワーIVCやSIT(V−FET) パワーアンプ兼パワーIVCのそれに比べるとかなり多い。



・何故か?



・知らない。

・パワーIVC動作時の方形波応答を観る。



・入力は±3mAp−p10kHz方形波。




・負荷を4Ω、8Ω、16Ω、32Ω、64Ω、100kΩ(負荷オープン相当)としたパラメトリック解析。
・結果はほぼ同じだが、一番下の図の出力波形、下から2番目の図の上下パワートランジスタのコレクタ電流波形の立ち上がりと立下りに多少のオーバーシュートとアンダーシュートがある。が、コレクタ電流波形のオーバーシュートとアンダーシュートのピークは、出力波形のピーク以上に大きい。



・出力波形のオーバーシュートとアンダーシュートの原因は初段J1のゲート抵抗なのはこれまで作ったパワーアンプ兼パワーIVCと同じで、そのゲート抵抗を短絡すれば消える。が、そうしても上下パワートランジスタのコレクタ電流波形の立ち上がりと立下りに多少のオーバーシュートとアンダーシュートは消えない。



・上から2番目がこの場合の終段プッシュプルエミッタフォロアドライバーのQ12とQ13のコレクタ電流の推移。1番上の図がその際に終段パワートランジスタの上下それぞれのパラのベース電流の推移。



上から2番目の図で、方形波の立ち上がり、立下り時に、プッシュプルの上側と下側のトランジスタに急激なパルス電流が流れている。1番上の図で、同じタイミングで終段パワートランジスタのベースにパラでほぼ同量のパルス電流が流れている。



・この辺はパワーアンプ動作時に同じ。
上下パワートランジスタのベース間に1uF程度のCを加えると、どうなるだろう。
・残念ながら、一番下の図の出力波形、下から2番目の図の上下パワートランジスタのコレクタ電流波形の立ち上がりと立下りに多少のオーバーシュートとアンダーシュートがある。



・が、コレクタ電流波形のオーバーシュートとアンダーシュートのピークは、出力波形のピークと同様な程度に小さいものとなった。



・こうしておけば、J1のゲート抵抗を短絡してゲートをアースに落とせばこれらのオーバーシュートとアンダーシュートは消えるだろう。
・本当か?
・本当だ。
・電流注入法で出力インピーダンスを観る。
・低域で37.3mΩ、100kHzで48mΩ。



・ゲイン-周波数特性が近く、同じく五極管特性のMOS−FETを起用した2SJ49−2SK134 パワーアンプ兼パワーIVCと同程度。が、100kHzでの出力インピーダンスはこちらの方が小さい。何故か?



・知らない。
・歪率を観る。
・負荷8Ωの場合も4Ωの場合も1kHzと10kHzの歪率がほぼ同じのため、それぞれ1本の線のように見えている。



・100kHzの歪率は負荷8Ωの場合も4Ωの場合もそれらより大きいが、案外小さい。100kHzのループゲイン≒NFB量は10kHz以下の周波数より概ね20dB小さい、即ち概ね1/10なので、歪率は概ね10倍になるはずだが、数倍又は同程度に収まっている。



・何故か? 知らない。



・これからすると歪率0.1%台以下では8Ω負荷で60W、4Ω負荷では110W程度の出力が得られる。



歪率1%以下を許容すれば、8Ω負荷では64W、4Ω負荷で128W程度の出力が得られるようだ。



・なお、パワーIVC動作時の歪率をシミュレーション測定していない。これまでの経験からするとパワーアンプ動作時と同じだろう。
   
・アンプ部基板。
  
・保護回路部基板。



・回路はK式より借用。
・回路はこう。シミュレーションの通りだが、

・終段パワートランジスタ―には何気にNECの2SA1007A−2SC2337Aを起用。

・終段のバイアス回路は現物に合わせて調整後の定数。これで終段のアイドリング電流を各素子200mA、トータル400mAに調整。


・電源部は、MOS−FET 2SJ49−2SK134パワーアンプ兼パワーIVCと同じく、SIT(V−FET) 2SJ20A−2SK70Aパワーアンプ兼パワーIVCの電源部を活用。2電源だから当然±55Vは使用しない。

 
・筐体組み。



・ケースは
タカチのOS115−32−33BXを新調。



・放熱器はジャンクボックスに眠っていたフレックスのTF1310A2。



・ケースのサイドに収まるように、2台のTF1310A2を中央でフィンを重ね、放熱器のフィンの短い方の上下に、ケースの前後パネルのフランジに結合するための1.5mm厚15mm×15mmのL字アングルを取り付けて2台の放熱器を連結する。



・そして、OS115−32−33BXの支柱の上下のL型金具の短い方を、TF1310A2の外側とする長い方のフィンのあたりで前後連結バーで繋ぐと、うまい具合に放熱器サイドユニットとなる。
・放熱器サイドユニットと前後パネルを結合して、
・基板を吊り下げ、裏返して、所要の調整をしつつ配線作業をすれば、
・出来上がり。
   
・早速音出し。



・右上が今回のパワーアンプ兼パワーIVC。



・良いね。



・心に染みる、ずっと聴いていたい音を出す。
・タツローの奥さん。相変わらず頑張っている。



・歳を重ねるとともに、相応しい詩を作り歌う、稀有な人。



・CD品質だが音は良い。姿が浮かぶ。
・これもCD品質だが音は良い。



・ピアノとボーカルのみだが、どちらも良い。



・優しさに癒される。
・良い録音。



・音が生きている。



・近ごろの優秀録音はなかなかだ。
・空気感が変わる。



・深い空間に奥深いパイルオルガンの荘厳な響き。



・心で聴く。
・心で聴き、心で感じる。
・マーラーの魂がさまよう。



・言うべき言葉なし。
・BILL EVANSの魂がさまよう。



・心で聴き、心で感じる。



・のは、ジャズも同じ。



・素晴らしい。
・ので、もうひとつ。



・水戸芸術館でのライブ。



・演奏、録音とも最高。
・レコードも聴く。



・パワーIVC動作。



・石川さゆり。何とも素晴らしい。



・流石だ。



・演奏、録音も実に良い。






・レコード。止められない。

 

・「V-FETパワーアンプとMOS−FETパワーアンプの2度にわたる個性音のダメージを受け、さらにRET(リングエミッタートランジスター)パワーアンプによる決定的ダメージの付録までついてから、これらのパワー素子を悪夢のパワー素子と呼んできた。」(No.135)

・EBT(エミッタ―バラストトランジスター)とRET(リングエミッタートランジスター)は設計思想、構造が同じ。“悪夢のパワー素子”?

・が、この
2SA1007A-2SC2337A パワーアンプ兼パワーIVCの音には何のダメージもない。2SA649−2SD218 バッテリードライブ不完全対称型パワーアンプ兼パワーIVCに勝るとも劣らない




2020年6月5日








メンテナンス




・2段目差動アンプの動作電流は、実測でトータル11mA〜12mA。設計通り。電流負荷なトランジスタ出力段に対応した設定。

・従って、2段目差動アンプのカスコードTR2SA606(TR6)の損失はそれなりになる。

・それを抑えるために、そのコレクタ側にツェナーダイオード05AZ24-Yを挿入している訳だが、この際その05AZ24-YをRD33F−B2に交換。

・TR6の損失をTR7並みに抑え一層の長期安定動作を図る。


・今や音源はクラウド。

・幸い音も良い。





2020年8月1日










メンテナンスその2




・特段のメンテ項目はないが、この際、オシロで位相補正が適正かどうかを観る。

 
   10pF 10kHz 横軸20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 1Vdiv
・位相補正は10pF。



・先ずは10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・輝線に何かまとわりついているが、観測環境のせいなのでそれは無視。



・出力波形には、立上り時のオーバーシュートと立下り時のアンダーシュートが出ている。
  10pF 100kHz 横軸2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 1Vdiv
・次に、100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形に、立上り時のオーバーシュートと立下り時のアンダーシュートが出て、それが折り返してピークが上下に3波ほどのリンギングになっている。



・この程度ならまずまずの範囲だが、リンギングが3波は少し多いとすれば、位相補正を少し増やしても良いかも知れない。
  15pF 10kHz 横軸20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 1Vdiv
・位相補正を10pFから15pFに変更。



・10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形に、立上り時のオーバーシュートと立下り時のアンダーシュートはなくなった。が、肩部分に何かありそう
15pF 100kHz 横軸2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 1Vdiv
・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形に、立上り時のオーバーシュートと立下り時のアンダーシュートはない。が、立ち上がり時にはピーク2つのリンギング、立下り時には下がり切らないうちに折り返すといった僅かなリンギングがある。



いにしえの教本では、この場合のように、オーバーシュートが1波程度あるように調整するのが妥当であるとされていたから、これなら教義に従った方形波応答だ、
   20pF 10kHz 横軸20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 1Vdiv
・試しに位相補正20pF。



・10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形に、オーバーシュート、アンダーシュートはない。
  20pF 100kHz 横軸2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 1Vdiv
・100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形に、立上り時のオーバーシュートと立下り時のアンダーシュートはない、滑らかな応答になっている。が、僅かにゆるいリンギングがある。



・これはちょっと位相補正が効きすぎのようだ。
・LTspiceのパラメトリック解析で、位相補正C1=10pF、15pF、20pFでの100kHz方形波応答を占ってみよう。
・位相補正10pFでは、オーバーシュート、アンダーシュートとともに、3波ほどのリンギングがある。



・位相補正15pFでは、オーバーシュート、アンダーシュートが無くなったように見えるが、良く観ると僅かなオーバーシュート、アンダーシュート、リンギングがあることが分かる。



・位相補正20pFでは、オーバーシュート、アンダーシュート、リンギングもなく、良好な応答波形だ。が、肩がなまったと言えばそう。



・位相補正は15pFにしよう。
・位相補正C10pFを15pFに交換。
  15pF 10kHz 横軸20uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 1Vdiv 負荷8Ω
・参考までに、8Ω抵抗を負荷にした場合の方形波応答。



・10kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形には、立上り時のオーバーシュートも立下り時のアンダーシュートもないが、多少のリンギングが出ている。



・そのリンギングは、入力波形にも出ている。8Ω負荷で観測すると必ずこうなるのだが、必然なのか、オシロのせいなのか、プローブの付け方が悪いのかな?
15pF 100kHz 横軸2uSdiv 縦軸下0.05Vdiv 1Vdiv 負荷8Ω
・同じく、100kHz方形波応答。



・下が入力波形で上が出力波形。



・出力波形には、立上り時のオーバーシュートも立下り時のアンダーシュートもないが、多少のリンギングが出ている。



・入力波形の方は何故こうなるのか、良く分からない。

・ということで、全回路図はこう。

・位相補正C5が15pFになっただけ。

  
   
・位相補正容量を10pFから15pFに変えて音は変わるか?
・毎度ながら、ちっとも変わらない。






・我が耳の至らなさだけは良く分かる。(爆)






・が、音は良い。
  



2023年11月23日